11/24 ほし

 ミシュランの星というのを、正直バカにしていた。日本のはいわずもがなで、海外のにしても、本国はともかく、イタリアなんか郷土料理全滅で、ああひどい偏見のもとに作られているのだなあと。いや、そういう傾向はやっぱりあるとは思うのだが、それをしてなお取るよりも維持する方が困難だと言われる三つ星を15年ほど続けている店がある。
 ダル・ペスカトーレだ。
 正直言えば、関心はなかった。ここでスーシェフやってた人が目黒にお店を出すまでは。
 ここのシェフ、ナディア氏はそれはもう厳しい人らしく、そこでスーシェフにまで上り詰めた人間は、半端な実力ではないと言っていい。食べて言うんだ、間違いない。ほんと、目黒の店は相当なものだと思う。で、じゃあ彼が学んだ店はどうなのかと。
 まあそれでも、最初は行けるとは思っていなかった。だって子連れだもの。ヘリポート3つだもの。動物放し飼い天国だもの。
 が、あろうことか、三つ星のくせに子供大歓迎と言うではないか。もちろん節度は必要だと思うが、とにかく店自体が子供いて全然OK、それなりのサービスをしますよって姿勢だと聞いて、しかも予約まで取ってもらえて、そりゃ行かないわけにいくわけがない。
 ややこしいけどとにかく行ったってことで。
 ベネチアからクルマすっとばしてカンネト・スローリオまで、ロスタイム入れて3時間半。よくぞ運転したぞオレ。すげえぞオレ。まあとにかくなんとかなったぞオレ。ほとんど高速だったけどナ。
 余談だが、イタリアの高速はじつに走りやすい。周囲の運転マナーとかいろいろあるが、それをさっぴいても運転しやすい。ここでしっかり運転に慣れてから一般道に出る方がいいんじゃないかと思えるくらいだ。
 そんなこんなで、高速降りてからも高速なんじゃねえのと思うような田舎の一本道(しかもどこまでも一直線なんだ!)を通り、無事カンネト・スローリオの宿へ。それからダル・ペスカトーレへ向かい、優雅な時を味わってきたという按配だ。
 ナノはイタリア料理があんまり舌に合わないらしく、なにを出しても食べてくれない(例外は生ハムの類と海産物、特に海老)のだが、ここの料理はがっつくのなー。もうこれがすべてをあらわしていたような気がしてならない。
 前日のVini da Gigioもかなりよかったのだが、やっぱり完成度ではダテに星3つも取ってないよなあという具合。
 まずアミューズがカボチャのポタージュ。まあ普通のカボチャで作ったのを想像してると、よさそうには思えないわけだが、これがシャレにならないくらいうまいのですよ。もうびっくり。ナノが一口口に入れられて、それからノンストップという。量はたしかにたいしたことはないけれども。
 で、ここからコースでとったので分かれてて、カミさんが肝臓の前菜、こっちはロブスターのテッリーナ。ロブスターは目黒の店でいただいているけれども、やっぱり材料の違いによる味の差があったという。逆言えば、さすが元スーシェフ、ほとんど技巧的な差はわからんかったです。
 で、次がリゾット。サフランの入った濃いミラノ風のやつ。それからニョッキ、鯛と続いて、最後はうさぎの煮込み。フォアグラ入れて巻いたの。
 料理はどれも隙がなくて凄かったですが、なにが凄いってやっぱりサービスで。
 こっちの様子を完璧に見ていて、先回りするでもなく、かといってこちらに不足を感じさせるでもなくという感じで、あくまで黒子に徹して、こっちを楽に過ごさせてくれているという。
 なにも考えてないと、本当にサービスされていることをほとんど感じないかも。

 ナノが食べ終わり、庭を駆けずり回っている犬たちのもとへと向かおうとそわそわする中、自分たちは食事続行。一応誰彼が表に様子を見に行くものの、ほとんど完璧に店員さんのチェックがあって、こっちの心配はほぼ杞憂に終わったという。
 ナノはもう大変で、犬と一緒になって庭を全力疾走し続け、帰る直前までそんな調子だったという。
 犬は2頭いて、ジャーマンシェパードの方はおっそろしく頭が良く、もう一頭のゴールデンレトリバーの方はちょいとお間抜けなのが大変によろしいコンビネーション。
 シェパードは子供を産んだばかりで、近寄らせてはもらえなかったものの、ころころと走り回っている姿は大変に愛らしく。なんでも、来週にはもらわれていってしまうらしいので、あの姿は今週が最後の貴重なものだったとか。
 まあそんなこんなで日も暮れて、帰る時間となり、別れを惜しみつつ宿へ。この辺も三つ星のサービスの一環なんでしょう。演出というと嫌う人も多かろうと思うけれど。

 それから、いったんアキさんとはお別れで、自分たちは宿にとどまり、明日のアスティに備える。夕飯をナノが欲しがったので(自分たちはもう結構だったのだが)、ピッツァを買い、戻り、結局あんまり食べずに寝るのであったのでした。
 今日の運転に気を良くして、明日もなんとかなるだろうと軽く考えつつ。

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