カミさんのノックの音。「ちびちゃん、行っちゃった」
最後はナノが前脚を握っていて、うつらうつらしている時だったらしい。声が聞こえたそうだ。
黒いのがなにを考えて、なにを感じていたのかそれはわからないが、その生涯はけっして辛いことばかりではなかったと信じている。少なくとも心を許した人間に手を取られたまま最期を迎えられたのは、最悪ではなかったはずだ。
もちろん黒いのには自分も思い入れがあって、三毛も強く心の中に残っているが、彼のことは生涯忘れることはないだろう。いろいろ猫を目にすることはあるが、彼のような個性の持ち主はいまのところ見た記憶がない。もちろん綺麗事ばかりではないが、愛すべき猫だったと感じている。
1年ちょっと前から弱っていること自体は気づいていて、だから夕方には美味しいご飯をあげていたのだが、ちょっと考えればわかるだろうに、こういう最後になるとは想像していなかった。
後悔があるとすれば、せめて病気の初期に対処して、苦痛を少しでも減らしてやれればよかった、ということくらいだ。大病しているので、おそらく寿命はそれほど変わらなかったのではないかとも思うが、それでも苦しみは少ないほうがいいに決まっている。
その時、今日が4/1であることに気がついた。
彼の死が、悪い冗談で終わってくれたらいいのに。
それからとりあえず黒いののために広げていたマットや、カミさんたちが寝るために延べていた布団の類を片付け、焚きっぱなしだったエアコンを切った。
そんなに広くないはずのリビングが、ひどくがらんとして見えた。
黒いののなきがらは、ナノが自分の部屋に連れて行って、いつも寝ていた座布団の山の上に、棺がわりにおさめた大きな紙袋ごと乗せていた。綺麗に咲いたミモザの花が見える場所。
それから風呂に入って寝て、瓶や缶を出し忘れたことに寝床で気づいたが、もう気力もないのでそのまま寝て、起きたらカミさんがお寺に連絡してくれていた。これから火葬してもらえるそうだ。
時間が来たので、結構な降りの中出て、黒いのを連れていく。犬のまるも、三毛も、鳩(ナノがウォーキング中に見つけて連れて行ったの。言われるまで忘れてました)もお世話になったところだ。たぶん利益なんか出ていないのに、連れて行った動物を荼毘にふしてくれる。
お別れを済ませ、戻ってくる。火葬には時間がかかるし、今日明日ずっと雨なので、お骨をお墓に納めるのは週末にしてもらい、今日のところは引き上げとなった。
その足でカミさんを駅まで送り、ナノとふたりで家に。ナノは疲れ切って寝てしまい、こっちは事前に決まっていた打ち合わせに備える。
仕事の方向性が決まった感じ。週末までにプロットを上げねばならない。日記が滞ってるのは、まあそういうことだったりします。黒いのの件もあったけど。
終わってファミレスへ。早速プロットを決めにかかるが、どうにも集中できない。黒いののことはもういいのだが、疲れているのだと思う。いやほら、今日もだけどあんまり寝てないから。
そのまま出て、買い物。今日は海南鶏飯に決めた。思考能力が落ちてるからろくに献立が思いつけないのと、ナノが最近鶏大好き男になったので、鶏肉中心になりがちで、それで最善に思えたのがこれだったってわけ。
戻ってすぐに仕込み、湯煎で仕上げる。湯煎は放置すればいいので助かる。
まあまずまずといったところ。鶏肉が柔らかすぎてちょっと大丈夫かと思ったが、生の部分はもちろんどこにもなく、加熱時間も温度も普通なので無問題。そのはず。
片付けして、いつも通りに風呂入って寝た。全然寝てないはずなのに、また朝だよ。外が明るい。
おにぎり。青椒肉絲。麻婆茄子。お惣菜鶏の竜田揚げ。冷食3種の和惣菜。
そう、ちゃんとお弁当は作りました。まあ残り物だけど。