12/28 高山

 思いつきで高山に行くことになった。ああだが、予報を見れば雪のマークが乱舞する。いや、市内はいい。なんとかなるだろう。だが、途中の道がどんなのか、オレは覚えている。朧げにだが。
 それがタイヤを履き替えた理由である。とはいえ、今回のためだけに冬用にするわけにもいかず、全天候型にしてチェーン併用でなんとかしようと企んだのだった。
 が、ディーラーが提案してきたのは、こちらの考えている全天候型とはちょっと違う最新鋭のものだった、というのが25日も書いた話。

 わかりやすくいえば、従来の全天候型はとりあえず雪の上を走れなくもないが、割と夏タイヤ的な特性を持ってるやつだった。当然氷上はアウト。ブラックバーンは論外としても、軽い凍結でも危険。というか、スタッドレスなら走っていい道路では、全天候型だとダメなことが多かった。
 それがこいつは、スタッドレスと同等の扱いで、夏場用のタイヤと同じように走れるってことらしい。
 普通に考えれば、売り文句を鵜呑みにするほど馬鹿なことはないのだが、検索して出てきた動画が異口同音に謳い文句通りの性能だと報告している。いや、絶対どれかの動画で本音が出ているのがあるはずって見れば見るほど口を揃えてほぼ同じ結論。もちろん手放しで絶賛ってわけではないのだが、いやそれにしても。
 なんにせよ、雪道を通らずに済むのが一番であることは間違いないわけだが。
 天気予報サイトなどで通過する場所の積雪量を確認したが、市内はほぼ雪なし(降雪はあったが溶けた)、信州側の雪はほぼなしで、問題は峠を越えて市内に入るまでの道だが、ほぼトンネルなので短い区間を耐えられればなんとか、という具合だった。念のためチェーン装着時の助けになるように手袋など調達し、作業用にこないだ100円ショップで手に入れた小型ライトを携行した。さらに携帯暖房器も装備。シャベルを乗せることは不明にして思いつかなかった。状況によってはこれは致命的だと後で思い至ったがそれは帰着後のこと。

 起きた。計測、投薬、圧ももちろん測った。飯はなし。途中どこかで食べようということになった。
 だが、結局出るのに手間取って出発は7時前。5時半にはなんとかと思っていたところから、ずいぶん遅れてしまった。
 高速は渋滞などの関係から、いつも猫娘を病院に連れて行くルートを使うことになった。まあいい道だし、走り慣れているのも悪くはない。ちょっと遠回りになるが。
 出発して1時間弱ほど経過した後、サービスエリアで飯にする。こないだの伊豆行きとは違って、早めではあったが大半の店は営業を開始していた。
 そんなわけでアジフライ定食など。でかいアジフライだった。うまうまといただいたものの、後味がちょっと生臭かった。まあそれはいい。
 さらに走り、富士山から雪雲が立ち上っているかのようなかかり方をしているのを眺めつつ、信州方面へ。

 隧道を抜けるとそこは雪国だった、というのは誇張でもなんでもなかったということを確認。本当にトンネル1本抜けたら周囲が真っ白になっていた。その直前で休憩した場所でもちらついてはいたのだが、その周囲は普通の光景だったので、これは驚きだった。雪景色自体は別に初めてではないというか小さい頃は冬に雪が降るのが普通だった。にもかかわらず、いきなりの風景の変わりぶりには思わず声を上げてしまった。
 雪はさらに勢いを増し、中央道に乗る頃にはわかりやすく大粒になっていた。それでも道は濡れている程度で、危険を感じるには程遠い。そんな状況だった。
 やがて高速を降り、峠越えのルートに入る。対向車の大半は普通だったが、その中にがっちり雪を乗っけているクルマが見られるようになる。なんとも不穏な光景だったが、それでもまだ冗談が出る程度のものだった。

 長い峠への道を走り続け、いくつか洞門を越えるとしだいに周囲に雪が増え始めた。路上にも雪が見られるようになったが、まだ走行に支障がある状況ではない。路上の雪が増え、轍の雪は溶けているが、中央にはこんもりと雪が残っているという路面が増えてくる。
 寄ろうかと思って、現在立ち寄り湯が閉鎖中と知ってやめた温泉への分岐路のあたりは雪で埋まっていて、でも営業中の温泉宿あるよなあれどうすんだって感じだったがメインの道はまだ大丈夫だった。
 見知ったダムのあたりはかえって雪は少なめで、でも路上の雪に厚みが増えつつあって圧雪状態と言ってもいい状況。だがまだタイヤは滑る様子を見せない。いや謳い文句通りなら滑るはずがないのだが、雪の分厚く積もった上を自転車で年賀状配達した経験がある身としては、あれがどんなに厄介か一応体感してはいるので気が気ではなかったのだった。
 そして、次第にトンネルが長さを増し、途中途切れている場所ではちょっと積もってはいたものの、雪をほぼ気にせず走ることができる状況が続く。トンネル万歳! そうだ俺たちにはトンネルがあるじゃないか! このままトンネルで突き抜ければ!

 やがて、かつて運転手たちを恐怖のどん底に突き落とした峠道を一気に貫く安房トンネルが終端に達する。その目の前に出現した光景は、まったくの白。そう、路面までも。ホワイトアウトとまでは言わないが、いやなんだこれ。雪はしんしんと降り続き、弱いながら風も吹いている。
 ハンドルは普通に回る。急に手応えがなくなることはなかった。アクセルを踏んだ感覚と、加速感に違和はない。すげえ、この雪の中で普通に走ってるぞこれ。
 ちなみにトンネル出た場所に料金所があったが、チェーン装着の掲示はなかった。つまり、スタッドレスで対応できる状況ということだ。
 それに勇気を得て、しかし慎重にクルマを走らせる。下り坂だもの。滑ったらアウト。そりゃ神経も細るというもの。

 なんとかその区間を走り抜け、市内へ続く最後のトンネルに入る。よし、これで市内は目の前だ! やった! だがナビの表示はあと30キロ弱。トンネルが25キロくらいあればいいのに!
 もちろん3キロも行かないうちにトンネルは終わった。ふたたび白い道が出現し、それが延々と続いているのが見える。なんだこれは。
 それでもクルマは普通に走っている。反応には相変わらず不安はない。登ってくるクルマはなんかそんな飛ばしていいのかって速度。こっちの後ろにはクルマの列ができていて、もっと出さなきゃいかんのかとも思うが、命が惜しいのでもちろんペースは守る。

 そして永遠とも思える数十分が過ぎたあと、次第に路面が露出し始めたことに気づく。数百メートル進むごとに、雪の面積が狭くなっていき、やがて雪がまったく見えないところまでやってきた。
 いや雪は降っているが。
 宿のチェックインまではまだ時間があるので、先に目的のラーメン屋さんに向かうことになる。宿に着く直前で目標を変更し、ナビに誘導を任せると、なんかどう考えても高速の入り口に向かおうとしていることに気づく。っていうか、ここもう市内じゃないよな? 自動車専用道路だったので避難できる場所も少なく、ようやく大きな路側帯のある場所に出たのでそこで確認すると、同じ名前の別の街の店へ連れて行こうとしてたっていうですね。なんだよ距離159キロって。
 なんとかそこから引き返し、たどり着いた市内で店の近くにあった駐車場にクルマを停めて、ラーメンをもそもそといただく。
 ああ、ああ、ああ、なんとうまいラーメンだろう。20何年前に食べて、強く印象に残っていたお店だったが、先代は引退して若い家族がやっていた。店も広くなっていて、ちょっと違和感が強かったものの、むしろ雰囲気がよくなっていて味は変わらず、大変素敵な感じだった。

 そこから古い街並みを流す。雪は強さを増し、傘持ってなかったことをいたく後悔する。途中で撮った写真には、まるで加工したかのように雪の大きな粒がびっしり写っていた。

 宿に到着し、荷物を置いて、色々準備をしてからやはり20何年前にたいそうよかった焼肉屋さんに。やはり記憶に間違いはなかった。高山は飛騨牛の街だが、ここはその中でも特別なのだ。
 しっかり堪能して、さらにもう1軒おいしいラーメン屋さんも教わって、宿に戻った。
 その後は入浴などして、こないだ届いたトランプでページワンなどを。そこで知ったが、いままで自分がやってきたページワンはどうやら同じ名前の別のもののようだ。なんだこれ、ルールが違うじゃないか! 新鮮な驚きだった。

 睡眠時間わずか3時間で、あのハードな運転をぶっ通しでやった結果、早めの時間にぶっ倒れるように寝た。
 寝たのだが。

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